「ジャイロスコープ」は7つの短編から成る短編集です。

【目次】

1 浜田青年ホントスカ
2 ギア
3 二月下旬から三月上旬
4 if
5 一人では無理がある
6 彗星さんたち
7 後ろの声が聞こえる

ジャイロスコープ (新潮文庫)

新品価格
¥594から
(2019/4/17 00:18時点)




【1 浜田青年ホントスカ】

スーパーの無駄に広い駐車場の有効活用として、稲垣という人物が駐車場にプレハブを建てて、「相談屋」をしています。
稲垣に誘われて、放浪青年の浜田は「相談屋」でバイトを始めるのですが、稲垣が浜田青年を誘った理由とは? 浜田青年の正体とは? というオチにつながっていきます。
この短編はオチに期待というより、「相談屋」での稲垣と客との掛け合いが面白さのメインでしょう。

【2 ギア】

近未来荒廃世界を舞台に、謎の生物セミンゴについて語られていきます。セミンゴは、3mもある銀色のほとんど未知の生物で、一匹いると、その巣には必ず9匹がみっしりと詰まっているという奇怪ぶりです。

【3 二月下旬から三月上旬】

主人公とその幼馴染坂本ジョンとの腐れ縁話です。
小説の時系列があいまいになっていて、その結果、主人公にとって、父母や妻子もいるかいないか分からない存在として書かれています。主人公にとって多くの知り合いが曖昧模糊とする中、坂本ジョンだけは存在したという確信が残ります。

【4 if】

主人公のいつも乗る通勤バスでバスジャックが起こりました。主人公は犯人に対して何もできなかったことが残念で......
バタフライエフェクトのようなタイムリープ物かと思わせておいての逆転が見事です。
「ジャイロスコープ」の7つ中で最も出来のよい短編でしょう。

【5 一人では無理がある】

クリスマスの夜に不幸な子供の元へプレゼントを届ける業務を行っている会社がありまして、そこで働く松田さんは、ちょっとおっちょこちょいです。
松田さんのミスでクリスマスの夜に「ドライバー」をプレゼントされた子供が、本当に必要としていた物はやっぱりドライバーだった、みたいなことになります。

【6 彗星さんたち】

東北新幹線内を掃除する人たちの話でした。7分間の掃除時間に出会う一期一会のお客さんたちの人生をファンタジックに想像してみるという話です。

【7 後ろの声が聞こえる】

これまでの6つの短編のまとめ的な話です。
「ジャイロスコープ」はバラバラの短編集なのですが、この「後ろの声が聞こえる」の中で、これまでの短編に出てきた人が登場します。
役者が勢ぞろいしてお客さんにあいさつするカーテンコールのような短編です。


【「ジャイロスコープ」 意味の解説】

「ジャイロスコープ」の解説に、伊坂幸太郎の15年を振り返って、というインタビュー記事があります。その中で「オー!ファーザー」を書き終え、同じようなものを書き続けてもしょうがないと考え、「ゴールデンスランバー」以降は好き勝手やっていこうと決めたとあります。

伊坂幸太郎の初期作品は、伏線を強力に回収することで作品にまとまりをつけるというものでしたが、「オー!ファーザー」以降は、作品にまとまりをつけるという作業が嫌になったのだと思います。

まとまりをつけるのが嫌になるという作家の倦怠期的なものはありえます。

森鴎外も明治天皇崩御以降はまとまりのある小説を書くのが嫌になり、「安倍一族」以降は勧善懲悪を拒否するような時代小説に移行しています。

近代世界はまとまりや整合性が重要視されていて、強い気持ちで頑張って、と応援されるような世界です。こういう世界観が嫌になって、まとまりのない世界にあこがれる、というのは日本近代文学によくあるパターンではあります。
しかし多くの読者が望んでいる小説は、まとまりのある小説世界だと思います。

伊坂幸太郎は「ガソリン生活」では、読者が読んで楽しめる小説を目指した、とありますから、またまとまりのある長編小説を出してくるのではないかと予想します。


関連記事