ネタバレありです

「バイバイ、ブラックバード」は太宰治の「グッド・バイ」の伊坂幸太郎流の続編として書かれています。


【「バイバイ、ブラックバード」あらすじ】

「バイバイ、ブラックバード」は5編+αからなる連作短編集です。

主人公の星野一彦はなんらかの理由で「あのバス」に乗せられてどこか遠くに連れていかれることになってしまいます。星野の監視役として組織から繭子という女性が派遣されます。

繭子なのですが、マツコ・デラックスをイメージしてもらえればいいと思います。

星野はバスに乗せられてどこか遠くに連れていかれる前に、今付き合っている5人の女性に一人ずつ別れを告げることが認められます。

バイバイブラックバードⅠ 廣瀬あかり

星野と廣瀬あかりはいちご狩りで出会いました。キチンとした格好の星野が一人でいちご狩りに来ていることに、廣瀬あかりが興味を持ったのが二人が付き合うきっかけでした。
繭子の提案で、星野が巨大ラーメンを食べきったら、廣瀬あかりはスッパリ星野と別れるということになります。出会いがいちごの食べ放題だったから、別れは巨大ラーメンなのが運命だ、というよくわからない理由が語られます。

バイバイブラックバードⅡ 霜月りさ子

星野が車を刑事に乗っていかれて呆然としていたところに、霜月りさ子が通りかかりました。彼女が星野に同情したことをきっかけに二人は付き合い始めました。
星野は突然の別れの償いとして、霜月りさ子の車を当て逃げしていった犯人を捕まえることにします。

バイバイブラックバードⅢ 如月ユミ

深夜にロープを抱えて歩いている如月ユミに星野が話しかけたことが、二人の付き合うきっかけでした。
如月ユミは星野と別れることをあっさりと承諾します。そのお礼というわけではないのですが、星野と繭子は、如月ユミとその友人との狂言強盗ごっこを手伝うことにします。

バイバイブラックバードⅣ 神田美奈子

星野と神田美奈子は耳鼻科病院で出会いました。耳鼻科医院というのは全国に1万軒ぐらいあるらしく、2人がであったのは運命だったみたいな考え方もあります。
別れを告げるために訪ねてきた星野に、神田美奈子は「自分は乳癌かもしれない」と告げます。精密検査の結果が明後日明らかになるというのです。星野はその結果を知りたいと思うのですが......

バイバイブラックバードⅤ 有須睦子

有須睦子は有名女優です。彼女と星野が付き合うようになったのは、星野が有須睦子の撮影現場にたまたま訪ねてきていたから、というものでした。
一般人の星野と有名女優とは釣り合わないと。しかし、有須睦子が星野に興味を持った理由は、彼女も忘れてしまっていたかつての運命的な思い出にあって.......

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【「バイバイ、ブラックバード」 意味の解説】

「バイバイ、ブラックバード」は太宰治の「グッドバイ」の続編をイメージして書かれたらしいですが、言われなければ全く気が付かないでしょう。
「グッドバイ」でのキヌ子に当たる人物が繭美なのでしょうが、 キヌ子は「運命に軽やかに逆らう」キャラクターですが、繭美は運命をコントロールする側ですから。

星野は「あのバス」に乗せられてどこかに連れていかれ酷い目に合うらしいのですが、「あのバス」を運行する組織とは何か、どこに連れていかれてどのような酷い目に合うのか、は本文中では全く明らかにされません。
さらに星野が連れていかれる理由なのですが、本文中に「借金」とは書いてはあるのですが、どのような借金なのかは明らかにされません。
伊坂幸太郎は自作解説の中で、

「あのバスとは何か、という読者の期待に応えられていたかは、まあ読んでいただければと思うのですが、ちょっと申し訳ないです」

と語っています。

さらにバスの説明をしなかった理由として、

「ロシアの映画に『父、帰る』という作品があって、作中で登場人物のディテールへの言及がないという体裁がすごく神話っぽいなと思いまして、それと同じことをやりたくなったんですよ」

とあります。

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伊坂幸太郎は「神話っぽい」と言っていますが、正確に言葉を選べば「悲喜劇っぽい」ということになるでしょう。

近代以降の小説という形式は、小説世界の整合性はその世界内で完結している、というものです。それに対して悲劇の形式とは、悲劇世界の整合性は別の世界の意思のようなものによって担保されていて、悲劇世界の人間は、別の世界によって指定された運命に従って物語を紡いでいく、というものです。

悲劇世界においては、人間は世界の意味について知ることは出来ないし知る必要もない、という設定になっています。「バイバイ、ブラックバード」の読者が「あのバス」の意味を知ることができないのと同じです。

この流れで星野一彦が、なぜ「あのバス」で連れていかれなくてはならなかったのか、どこに連れていかれるのか、を説明してみましょう。

星野は5人の女性の運命をコントロールしてしまいました。正確に言うと、5人の女性は星野との出会いを運命だと思ってしまいました。
しかし悲劇世界で運命をコントロールできるのは、人間には知ることの出来ない別世界の意思だけです。星野は悲劇世界での禁忌を犯したと。星野は、この世界の運命をコントロールする意思に対して借金があるということになります。だから「あのバス」で連れていかれます。

星野がどこに連れていかれるかというと、悲劇世界をコントロールする意思の世界へでしょう。それがどのような世界かというのは語ることができません。これを語ってしまうと悲劇世界が壊れてしまいますから。

伊坂幸太郎の小説というのは、小説の形式ではなく悲劇の形式を踏襲しているでしょう。

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