【「SOSの猿」 あらすじ】

「私の話」と「サルの話」が並行して進みます。

「私の話」での主人公は、弱いくせに人の不幸を見過ごすことができない遠藤二郎君です。職業は家電量販店での販売員なのですが、除霊のボランティアをやっています。

二郎君は昔イタリアに留学した時に、ちょっとしたきっかけで悪魔祓いをする神父に弟子入りしていた経験がありました。

二郎君が除霊ができるという噂を聞きつけられて、親戚のおばさんに、引きこもっている自分の息子の様子がおかしいので試しに除霊をしてほしい、と頼まれてしまいます。

気が進まない中、その息子(真人君)に会いに行くと、真君は、

「自分は孫悟空である」

と、さらにそのことを証明するために

「例えば窓の外を歩いているあの男の半年先の未来までを予言する」

というのです。

真人君が語った一人の男の半年間の物語が「猿の話」ということになります。


「猿の話」での主人公は五十嵐真です。小説の構造上、ここはネタバレになるのですが、真人君の部屋の窓の前を歩いている男の名前は五十嵐真であると、真人君自身が語りだすわけです。

五十嵐真はコンピューターのシステム開発会社に勤めているのですが、システムを納入した先の証券会社で、株の誤発注事件が起こります。

証券会社の社員が、『20万円1株売り』の注文を間違えて『1円20万株売り』とやってしまい、気が付いて注文を取り消そうとしてもコンピューターシステムに受け付けてもらえず訂正できませんでした。結果、証券会社は300億円の損害を被ります。

株取引のコンピューターシステムに不都合があったのかなかったのかを調査するために送り込まれたのが五十嵐真でした。

五十嵐真の調査によると、誤発注した証券会社社員は寝不足であったと。寝不足であった理由は、前夜隣の部屋がうるさかったからだと。
何故うるさかったのかというと......  ここから先は孫悟空も現れて、五十嵐真と共に因果関係を探索していきます。

「五十嵐真の話」は真実を確かめる話です。
半年たって、遠藤二郎君とそのゆかいな仲間たちは、半年前に真人君の部屋の窓の外を歩いていた男を実際に捕まえて、真人君の話は真実であるのかどうかを確かめようとします。

結論から言うと、真人君の話はだいたい合っていました。男の名前が五十嵐真であるということ、株の誤発注事件が実際に起こったということ、などは合っていたのですが、誤発注を起こしてた証券会社の名前、証券会社の損失額というのは、真人君の話とは多少違っていました。

真人君の話によると、証券会社社員を寝不足にした隣の部屋には、とんでもなくタチの悪いDV男が住んでいるということでした。真人君の話がおおむね真実なら、よし今からみんなでそのDV男と対決しに行こうということになりました。

DV男は自滅します。そして株の誤発注事件を前もって知っていた真人君は株取引で大金を得ます。真人君はその儲けたお金でかわいそうな人たちを救い、話は終わります。

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「SOSの猿」意味の解説

本作にある株の誤発注事件というのは、2005年にみずほ証券がおこした「ジェイコム株大量誤発注事件」がモデルになっているでしょう。この事件で20億円の利益を得た個人投資家が「ジェイコム男」と命名されたりしました。

当時の個人投資家の話題はこのジェイコム男についてではなく、証券会社の空売りシステムについてでした。空売りとは、信用取引において持っていない株を売ることの証券用語です。当時個人投資家は日本証券金融が指定した銘柄しか空売りできなかったのですが、この事件によって、証券会社は新興市場に当日新規上場したような銘柄でも無限に空売りできるのだと明らかになりました。


伊坂幸太郎の小説は、個人の意思による勧善懲悪を排除して、運命をつかさどる神の采配としての勧善懲悪を目指す、という特徴があります。

伊坂幸太郎はジェイコム事件から、あぶく銭は運命をつかさどる神によって困窮している人に再配分されたら、のようなインスピレーションを得たのでしょう。

運命をつかさどる神の手下として、「孫悟空」が登場させられているのでしょう。


この「SOSの猿」は、五十嵐大介の「SARU 」とのコラボ企画です。「SARU 」を読めば、「SOSの猿」の伏線をより多く理解できるでしょう。

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