この小説の主人公である大学生「僕」というのがすごくいい味を出している。地頭がよくてクールで死に行く人への敬意を忘れないという。

患者の最後の願いを叶えるといっても、叶える側がただの大学生なのでたいした願いは叶えられない。人を探すとかデートするとかというようなレベルだ。どうってこともないような話なのだけれど、患者と大学生「僕」との距離感がすばらしい。

この小説世界は、イメージとして患者の死という力の周りをクールさと誠実さのバランスを取りながら大学生「僕」がぐるぐる回っている感じだね。



二話目のWISHが特にいい。心臓手術を間近に控えた女子高生が、キスもせずに死ぬのは嫌だから大学生「僕」にキスをしてという。そしてこのようにある。



「キスはしたくてするものではない、と僕は訂正した。そうせざるをえないからするのだ。そう思った。たぶん、魂というものは確かにそんざいしていて、それが体という不自由なもののなかで悲鳴を上げたとき、それは唇を通して触れ合うことを求めるのだろう」



女子高生とキス?して問題になっている芸能人もいるけれど、このキスはセーフでしょう。そして自分のファーストキスとか思い出したりする。遠い昔の話で、そういえば相手の女の子は未成年だった。私も未成年だったし問題ないよね。あれは唇を通しての魂のふれあいだったのかなー。




この「MOMENT」という本、残念なのは4つ目の短編がいまいちなところ。大学生「僕」が患者世界に踏み込みすぎていているし、患者のオヤジもカッコつけすぎだろう。そもそも借金取りなどというものは別れた妻のところにも行かないし病院の個室にまで来て家捜しみたいなことはしない。
最後の短編が一番弱かったというのは非常に残念だった。でもこの小説には続編があるらしいので、そっちは期待できる予感がする。