カラマーゾフの兄弟は3兄弟。全部男で、上からドミートリー、イワン、アリョーシャ。
この長男ドミートリーがアリョーシャに対してこのような告白をする。

「どうせ奈落に落ちるんなら、いっそまっしぐらに、頭からまっさかさまにとびこむほうがいい、まさにそういう屈辱的な状態で堕落するのこそ本望だ、それをおのれにとっての美と見なすような人間だからなんだ。ほかならぬそうした恥辱の中で、突然俺は讃歌をうたいはじめる。呪われたってかまわない、ただそんな俺にも神のまとっている衣の裾に接吻させて欲しいんだ」

これは坂口安吾だ。

センセイはまだとらわれているんだ。オレみたいな才能のないやつが何を分かったってダメなんだ。センセイに分かってもらって、そしてそれを書いてもらいたいんだ。旅にでれば必ず分かる、人間のふるさとがね。オヤジもオフクロもウソなんだ。そんなケチなもんじゃないんだ。人間にはふるさとがあるんだ。そしてセンセイもそれがきっと見える

同じことを言っていると思う。

ドミートリーは真実の大地に降り立つために、わざと卑劣漢になろうということ。
ドミートリーが軍隊にいた頃、その上官、中佐の娘というのが評判の美人だった。名前はカテリーナ。ドミートリーは隊でも有名なあそび人で、軍隊内での鼻つまみ者。父親のフョードルからせしめた金で当時は金回りもよかった。カテリーナに

「俺はいつでもお前のために金を用意できる」

なんてモーションをかけていた。カテリーナはもちろんムシ。
中佐は軍の資金4000ルーブルを預かっていた。金利をかせごうと堅実な商人にその金を回していたのだが、それが全く焦げ付いてしまった。追い詰められた中佐は自殺未遂までしてしまう。娘のカテリーナは父親をみかねて、ドミートリーの部屋に金を借りに来た。

さてどうするか?

「4000ルーブルですって? いやあれはちょいと冗談を言っただけでさ。それをあなたは、あんまり人がよすぎやしませんか、お嬢さん。無駄なご心配をなさいましたな」

といって追い返すというのも魅力的だ。この構想のいいところは、カテリーナの女性としての魅力を無視することによってカテリーナ自身も傷つけることができるという点だ。
ドミートリーは3秒も5秒もカテリーナをじっと見つめた後、もう一つの選択肢を選んだ。

「ふりかえって、テーブルのところに行くと、引き出しを開けて、4000ルーブルの無記名債権をとりだした。それから無言のまま彼女にそれを見せて、二つ折りにし、玄関へ通ずるドアをじぶんで空けてやって、一歩しりぞき、この上なく丁寧な、まごころのこもった最敬礼をしてやった」

そもそも美人であるということにアグラをかいている女性は多い。物心ついたころからちやほやされているんだろう、ふざけきった態度の女というのはいる。どうすればこのような女に
「おまえはツラの皮一枚でただ勘違いした世界を生きているだけなんだよ」
なんていうことを悟らせることが出来るか。
ドミートリーはこんな女に一発かましてくれたわけです。これは美人をちやほやする男社会からの堕落ということだね。

ドミートリーとはこんなヤツです。


関連記事