あの安藤が、栗原が、磯部がよみがえる。二二六事件を読みやすいタイムトラベルSFで紹介しようという、二二六事件ファンにはたまらない一冊(上下で二冊なんだけれど)。

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二二六事件はそもそもが評価の難しい事件だ。それをSFという手法を用いて現代の世界観と関係付けながら表現しようというのだから、この小説はある種のチャレンジだろう。
恩田陸はこの難しい設定をどう解決するのだろうと思いながら読んでみた。

SFだからこの小説内においては21世紀には時間遡行の技術が存在していることになっている。現代の国連は、正義と称し過去に遡ってヒトラーを暗殺したらしいのだけれど、結果さまざまな時間的ひずみが生じて歴史のタガが緩んでしまい、国連が二二六事件当時の日本にも介入しなくてはならなくなったという。
国連職員は二二六事件に関与した安藤輝三と栗原安秀の協力を得ながら歴史を確定しようとするのだけれどなかなかうまくいかないという流れで話は進んでいく。

ヒトラーを暗殺したらしい国連が二二六事件に介入するという設定の結果が、政治思想的に読む者を限定するようになるのではないかと最初は思ったのだけれど、そうでもないね。国連の事務の現場のみを描くことによって、政治的にセンシティブな問題はほとんど回避されている。
ただこのSF小説の中で石原莞爾が

「日本は父親を必要としているだけなんだ。明治維新前、それは中国や朝鮮だった。明治維新後、 父親はヨーロッパになった。今の日本は父親を失って苦しんでいるだけだ」

みたいなことを言わされていた。戦後の日本の父親はアメリカだということなのだろう。挑発的な発言ではあるだろうが、女性作家に言われたのでは腹も立たない。

この小説では、安藤や栗原がリアルな感じでしゃべったり行動したりするのがじつにいい。栗原が国連職員にこのように啖呵を切る。
「おまえら安藤大尉がただの善人だと思ったら大間違いだぞ」
いいぞ栗原、もっと言え。

おまけ。
二二六事件をもっとよく知るための、二二六事件名場面ベスト3。

 第3位
二二六事件で生き残った将校の50年後の座談会での清原康平の発言。

「226の精神は大東亜戦争の終結でそのままよみがえった。 あの事件で死んだ人の魂が、終戦と共に財閥を解体し、重臣政治を潰し民主主義の時代を実現した」

反論の出やすい発言だろうと思うけれど、清原はこの発言の上にさらにこうかぶせてきた。

「陛下の記者会見で、
 記者 おしん、は見ていますか
 陛下 見ています
 記者 ごらんになって如何ですか
 陛下  ああいう具合に国民が苦しんでいるとは知らなかった
 記者 226事件についてどうお考えですか
 陛下 遺憾と思っている

遺憾と思っているという言葉で陛下は陳謝された」

 第2位
磯部浅一 「獄中手記」

「天皇陛下、この惨たんたる国家の現状をご覧ください、陛下が私共の義挙を国賊反徒業と御考え遊ばされているらしいウワサを刑務所内で耳にして、私共は血涙を絞りました。
陛下が、私共の義挙を御きき遊ばして
 日本もロシアのようになりましたね
ということを側近に言われたとのことを耳にして、私は数日間、気が狂いました」

いかんね。ロシア革命というのは貴族と庶民とが懸絶してしまった結果起こったもので、日本一体性のアンカーである天皇自らが、日本もロシアのようになりましたね、では何がなんだかわからない。磯部はさらにこのように続ける。

「日本もロシアのようになりましたね、とはいかなる御聖旨かわかりかねますが、何でもウワサによると、青年将校の思想行動がロシア革命当時のそれであるという意味らしいとのことをそくぶんした時には、神も仏もないものかと思い、神仏をうらみました。
天皇陛下 何という御失政でありますか 何というザマです 皇祖皇宗に御あやまりなされませ」

そりゃあ言われるよ。言われてもしょうがない。

 第1位
安藤輝三部隊の鈴木貫太郎侍従長公邸襲撃

安藤大尉は、拳銃の弾を4発打ち込まれて倒れた鈴木貫太郎にとどめをさそうと軍刀に手をかけた。夫人が侍従長をかばうように体を投げ出すと、安藤大尉は彼女の気持ちにうたれて思いとどまり、折敷け! と命じて自ら黙祷し、立ち上がると、

「閣下に対し、捧げ銃(つつ)!」

と挙手の礼をし、静かに部屋を出て行った。
鈴木貫太郎は回復し、終戦時の総理大臣となりポツダム宣言を受託した。
後、鈴木貫太郎は安藤大尉は命の恩人であると語っていたという。




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