底辺会社で働く人というのは結婚がしにくいのだけれど、うちの会社の場合、自分の会社で働く社長の息子すら結婚していない。ちなみに現在45歳だ。
これまずいでしょ。取引先の信用とかにも関わってくるからね。



何で結婚しないのかって、こいつに聞いたことあるんだよね。さしで飲みながら、おだてて飲ませておだててみたいな感じで。

彼の告白というのが、まあ昔恋人はいたというので始まる。
二十歳ぐらいの時に、その恋人と二人でバイクでツーリングに行ったというんだよね。事故で彼女は死んで、彼はひとりで戻ってきたという。

後細かいことをいろいろ喋っていたけど、いろんな意味で絶句。こんな辛気臭い昔話なんて催促しなきゃよかったと思った。
昨日今日の話なら同情もするけど、だいたいさー、20年も前の話なんだよ。正直、お前いったいいつまで昔のことを、みたいなことを思った。

「アンドロイドは羊の夢を見るか?」という小説があったけれど、「君は彼女の夢を見るか?」だな。真夜中に死んだ彼女の夢を見て、朝起きたら夢のことは忘れているのだけれど、こめかみに涙の後だけ残っている、なんていうこともあるような勢いだ。

残された者のひけめというのも分からないではないけれど、これから会社をまとめていかなくてはならない、心を強くして生きていかなくてはならない者が、20年も前に死んだ恋人に操をささげているというのでは関係者としては心許ない。
喪失感って言うの? 村上春樹ばりの。でもここはセンシティブな上流階級のサロンではない。殺伐とした底辺世界なんだよ。場違いにもほどがあるだろう。喋らせた私も悪いのだけれど。

底辺会社の二代目三代目というのはこの程度です。

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