密室ものの推理小説だった。

探偵役はN大学工学部犀川助教授。舞台は愛知県だから、N大学とは名古屋大学だろう。犀川助教授というのがちょっと頼りない。N大学学生の西之園萌絵は、犀川助教授をすごく頭がいいと思っている。なぜかというと、萌絵の趣味である手品のトリックをたちどころに見抜いたからというものだ。探偵能力の根拠としてはちょっと薄いのではないだろうか。

犀川助教授と西之園萌絵は生物の定義について議論する。犀川は生物であるための条件として、自己防衛能力、自己繁殖能力、エネルギー変換能力をあげている。
まあ、ここまではいいだろう。
しかしこの後、故にコンピューターウイルスも生物である、などという論理を展開している。
エネルギー変換能力はどこに行ってしまったのだろうか。

事件は小さな島で起こる。セキュリティーの厳しい研究施設内の24時間監視されている部屋で天才プログラマである真賀田四季が異常な殺され方をする。犯人はどこにもいない、密室である。
被害者である真賀田四季は天才だとか、さらには神に最も近い人間とかいわれるのだけれど、しょせんは1990年代のプログラマであって神に最も近いとかいわれても困るものがある。天才だから超能力が使えるというわけでもないだろうし、真賀田四季の能力は推理小説内においては二次的な問題だろう。

犯人についてなのだけれど、ほとんど怪しい人物は出てこない。あえて言えば、真賀田四季の妹なる人物が途中で現れるのだが、ただ出てくるだけで探偵との絡みとかはあまりない。

探偵は頼りない、天才は殺される、犯人はいないとなると、密室のトリックのみがこの推理小説の整合性の根拠になる。
だいじょうぶか? と思う。

結論としてはだいじょうぶでした。さすがに有名な作品だけある。密室トリックがしっかりしているので、多少のぐだぐだ議論は許せるレベルだ。