話の内容としては、3歳の娘を精神障害者に殺された夫婦が、離婚しながらも一緒に、刑法39条によって不起訴になった犯人を追い掛け回すというものだった。

精神障害者が犯罪を犯した場合、無罪になったり刑が減刑されたりするのだけれど、これはどうなのかというのが話の本筋だ。重い話なんだよね。
そして読み始める。
文章は軽い感じで読みやすい。大丈夫か? と思う。扱う内容が重いのに文章が軽いと逃げ場がなくなるのではないかと心配になる。この軽さでは、社会の不条理を個人の苦悩にすりかえることができない。

さらに序盤から、本筋に関係ないところでも作者の本音トークみたいなのが炸裂する。
被害者の妻というのが、離婚した後再婚する。この再婚相手というのはある程度社会的地位のある人だ。被害者の妻が精神的におかしくなって、再婚相手は手を焼くんだよね。被害者の妻が離婚届を机の上において家出するのだけれど、これに対する再婚相手の内面表現が、

「願ってもない僥倖(ぎょうこう)だった。いわれるまでもなく、明日の朝一番で市役所に行くつもりだ」

とある。「ほっとした」とかなんとかですますこともできるのに、本音トーク炸裂だろう。

犯人の彼女というのがキャバクラ嬢なんだけれども、このキャバクラでの描写というのがまた本音トークだ。かっこいい若い男性が来るとキャバ嬢はほっとして、キモいオヤジが来るとがっかりするという。キモいオヤジなんだから出来るだけ金を引っ張ってやろうという。
キャバクラって何なんだろうね、あれ。もてないヤツが金を払ってキャバ嬢にもてたからといって、なんの実質もないことは明らかだ。

男は金を払って夢を買っているという意見もある。しかしこれが作者の罠だろう。キャバクラで男が見る真実と、統合失調症患者が見る真実と、何が違うのですか? というわけだ。

このような本音トークの流れで、精神障害者による犯罪とは何なのかという問題に肉薄しようとしているというのがこの小説の面白いところだなと思った。