8つの小品からなる、ノンフィクションスポーツ短編集だった。

表題作の「スローカーブをもう一球」というのは、群馬県の進学校である高崎高校の野球部が甲子園に行くという話だった。弱いチームが勝ち進むということなのだけれども、その秘密というのはこのチームのエース川端君が優秀だからだと思った。

彼は考えながら野球をする。例えばこのようにある。

「スローカーブを投げたときのバッターの表情を見ていると、バッターがどんな気持ちか、手に取るようにわかるんだ。--川端はそう考えている」

運動しながら考えるというのは難しいよ。数学の問題も机の前に静かに座っているから解けるのであって、走りながらの酸欠状態では不可能だろう。
運動しながら考えるためには、おそらく何らかのハイレベルでの条件が必要だと思う。その条件をクリアーしているのだから、川端君はすごいよ。

私は、中学、高校、大学でバレーボールをやっていた。中高は部活、大学は体育会。初めて大学で部活の練習に参加した時はびっくりした。
大学バレー、スゲー、と思った。
身長180センチ台、運動神経抜群そうなエースとセンターを四枚そろえて、ドッコンドッコン打つんだよ。先輩に聞いたら、これで東海リーグ二部だという。

「えっ、二部?」

と思った。
その後すぐ春リーグというのがあって、ウチの大学は二部で優勝した。そりゃそうだろう、と思った。あれだけのエースをそろえて二部はない。二部で優勝したから、一部最下位との入れ替え戦がある。相手は愛知教育大学だという。

余裕でしょ、と思った。愛知教育大学って国公立でしょ。中京大学とか愛知大学とかのようなスポーツ大学ではないでしょ。

ところが、やってみたらボロ負け。相手にはすごいエースがいて、うちのセンターのブロックの上から打ってくる。おまえエヴァンゲリオンかよ(30年前当時はグレートマジンガーかよとつっこんだ)。

私は、バレーは考えちゃダメだ、高さとパワーだと思った。
すなわち私には、運動しながら考えるための条件は与えられなかったんだよね。

私が大学バレーをした4年間、うちの大学はずっと東海リーグ二部だった。