「本が好き」内の信用できるレビュアーさんがこの本に高評価だったので、ちょっと読んでみようかと思った。
朱川湊人という小説家は聞いたことがなかった。そんな作家、超絶マイナーなのではないかと疑いながら近所のブックオフに行って探したら、あったあった、マジあった。「花まんま」という本は、普通に本棚に刺さってあった。
手にとってみて思ったのだけれど、自分的には普通、絶対選択しない本だと思った。まずもって、題名が「花まんま」で、この文庫本の表紙が、花畑に座る赤い服を着たツインテールの少女のイラストなんだよね。関係ない話かもしれないけれど、私はロリコンではありません。
何かの根拠がないと、いい年をしたオッサンが、この本をレジに持っていくというのは不可能だろう。

これだけのハードルを越えさせといて、この本がつまらなかったら本当に激おこプンプン丸だよ、と思って読み始めた。そして読んだ感想なのだけれど、

「ええ話やなー」

6篇の短編集なんやけれど、「花まんま」ではちょっと泣いてもーたね。
昭和40年代大阪の子供目線の物語だった。男の子が東京から大阪に引っ越してくる。文化住宅という長屋式の賃貸住宅に住む。大阪の長屋というのはコの字になっていて、真ん中に空き地上のスペースがある。私は昔、大阪大学にバレーボールの試合で遠征に行ったことがある。大学には体育会のための宿泊施設みたいなものがあるのだけれど、大阪大学の宿泊施設はコの字型の文化住宅スタイルだった。なんだこれ、と思った。
ペリーヌ物語のペリーヌの家かよ
本当にそんな感じだった。ちなみに京都大学の宿泊施設はこじゃれたペンションみたいだった。

そして、東京から大阪の文化住宅街に引っ越してきた男の子の、コの字世界で暮らした日々はどうだったのかというと、

「あの袋小路での日々こそがまさに黄金だった」

本当に、子供時代って今から考えると、濃密で息苦しいようで、まさに黄金だったよね。この本では、怪獣とかラジコンの戦車が流行っていたりしているけれども、私の町では、それは「恐竜」だった。小学生の時、「まさなが君」というのが恐竜博士で、クラスの羨望の的だった。私は気の弱い小学生で、でも実は恐竜大好き、隙を見て「まさなが君」に喋りかけた。
「ねえ、まさなが君。恐竜って、いっぱい種類があるよね。でもさすがにさー、うんこザウルスっていう名前の恐竜はいないと思うんだよね」
まさなが君は答えた、今でもはっきり覚えている。
「いるよ、うんこザウルス」

マジで信じた。子供時代とは、まさに黄金の時代だった。

ヘーゲルの「精神現象学」にこのようにある。
 かつて世界のあらゆる事物はコンジキの糸によって天とつながれていた。近代とはその糸を切る時代である
その通りだとおもう。黄金の糸をることによって、大人というものになったのだろう。「花まんま」を読んで、いいこと悪いこと、昔の事を思い出した。