ベラックワというのは、ダンテ「神曲」の登場人物らしい。
それで、「ベラックワの十年」という短編は、大江健三郎が40歳ぐらいで、ダンテ「神曲」を原文で読むために頼んだ若い女性イタリア語家庭教師に誘惑されるのだけれど、拒否するという話だ。

不倫の誘いをスルーする話だから、別に物語的にはどうということもない。ベラックワとは、不倫をスルーするほどモノグサな自分と重ね合わせるために登場しているだけで、ダンテの「神曲」自体は飾りみたいなものだね。

「ベラックワの十年」は1988年発表。
この短編小説の落ち着きぶりとはどういうことかというと、大江健三郎の小説世界が、イーヨーというヒーローを得て閉じ始めたということになるだろう。

「ベラックワの十年」という短編は、これだけ読んで面白いというわけではないと思うのだけれど、今まで大江健三郎を読んできた人なら、おそらく何か納得するものがあるだろう。  

終わりの始まりだ。

この書評は短編集の書評になっています。


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