私には二十歳の息子がいる。高専生なんだけれど、そこそこの成績も取るし、私と違って常識的な感じで妻の信頼も厚い。 気に入らないのは、いつもなんだかタブレットで奇妙な漫画を読んでいること。漫画が悪いというわけではない。私も子供の頃はジャンプとか読んでいた。しかし二十歳になってメインが漫画ってどうかなと思う。自分が二十歳のときはヘーゲルを読んでいた記憶がある。別にヘーゲルを読めとは言わない、というか二十歳でヘーゲルを読んでいたら将来不安で親としてもちょっと困る。これは言いにくいのだけれど、大学の時か、妻と最初にやって終わった直後、賢者モードというのか、おもむろに近くにあったヘーゲルの「精神現象学概論」を読み始めて、妻(当時彼女)を激怒させたことがあった。25年たった今でも、何かあると妻に「あんたはヘーゲルでも読んでいればいいでしょ」と言われる。  だから息子にヘーゲル読めとも言えないのだけれど、いつまでも漫画ってないとも思う。これを息子に言うと、「漫画を読んでいないのに、漫画を批判しないで」と言われる。 これは一理ある。読んでもないのに批判するというのは、これあんまりよくない。漫画は嫌いではないのだけれど、しかしオヤジになってまで流行りの漫画をいちいちチェックするというわけにもいかないだろう。そのあたりは、読書歴40年という私を信じて欲しいところだ。私ぐらいになると、読んでいない現代小説や漫画も批評できそうに思うのだけれど、もちろんそんなことはありえないのだろう。   息子との心の距離は開きがちだよね。