ホロコーストについて語らなくてはならない。ヒトラーがなぜユダヤ人大量虐殺などということをしたのかという問題がある。ヒトラーは狂人だったとか、さらに脳炎だったなどという説がある。このような説は認められない。物事を簡単に考えすぎている。一国を動かした言説が、狂人のたわごとだったなどということは、普通に考えてありえない。ヒトラーが狂人だったなどという観念が流布するのは、文明は進歩するという漠然とした観念があるからだろう。しかしこのような観念はまやかしに過ぎない。100年前のギリギリの天才が、現代の平和をぼんやり生きている馬鹿より馬鹿ということはありえない。   では、ヒトラーとホロコーストとはどのようにつながっていたのか。   そもそもドイツという国は、ドイツ帝国として1871年にプロイセンのヘゲモニーによって成立した連邦国家が始まりだ。明治維新が1867年だから、それより4年後というこになる。おもいのほか新しい国家だ。そもそもが連邦国家だったのだから、第一次大戦の敗北によって、ドイツの一体性が怪しくなったということはあるだろう。さらにドイツにはカトリックとプロテスタントとの確執というのがイギリスやフランスよりも大きくて、さらに一体性を維持するのが難しい状況が重なっていた。 ヒトラーはドイツの一体性を必要としていた。アーリア人というのは、ヒトラーにとってドイツの一体性を補完する概念だった。そして、アーリア人のアンチテーゼとしてユダヤ人を設定することによって、アーリア人という観念をより固定しようということだろう。   別の見方をすることも出来る。そもそもユダヤ人というはメジャー概念だ。ユダヤ教は、プラトンにもキリストにも決定的な影響を与えたところの、西洋においては概念の王様だ。ヒトラーは、ユダヤ人のアンチテーゼとして、アーリア人という概念を確定しようとした。  ユダヤ人のアンチテーゼがアーリア人である。アーリア人のアンチテーゼがユダヤ人である。  このようになると、互いが互いをフィードバックしあい、二つの概念が寄り強固に対立するようになるだろう。その結果のホロコーストだと思う。ヒトラーを擁護するわけではないのだが、ホロコーストの原因というのは、ヒトラーの思想から直接導き出せるというものではなく、ドイツの歴史的不安定性も考えに入れていかないと、知的に誠実ということにはならないと思う。  とにかくアウシュビッツとい強烈な悪が存在するから、ヒトラーを擁護するというのはきわめて危険だと思うけれど、それでも知的誠実さというのはゆずれないところなんだよね。