文庫本で200ページほど読んだのだけれど、ヒトラーは狂人でもないし、馬鹿でもないね。   ドイツにおいて、「わが闘争」は禁書になっている。禁書になるほどのパワーがあると考えていいだろう。インパクトのある部分を以下に紹介する。  「国家の権威、民主主義、平和主義、国際的連帯、等は、われわれの場合はいつもほとんど固い純粋の教義的観念になった公然たる概念である。すなわち一般の国民生活に必要なものの判断がすべて、この観念からだけ生ずるのである」  ニーチェの香りがしてきた。ニーチェは近代を相対化しようとした。フーコーはニーチェを手がかりに、精神医学というものを相対化しようとした。ヒトラーは民主主義や平和主義を相対化しようというのだから、フーコーのはるか上方を飛んでいる。ヒトラーなどという絵描き崩れに、フーコーの上をかぶせ続けられるものだろうか。ハードルを上げて、待ち伏せてみよう。  ヒトラーは続けて、このように語る。  「一度入り込んだ先入観という視角のもとに、あらゆる利害を考察するというこのいやなやり方は、客観的には自己の心情に矛盾することを主観的に考えてみるという能力をすべて殺し、ついに手段と目的を完全にひっくり返すようになる」   すばらしい、全くすばらしい。  この言説は、フーコーの上をいっているし、ニーチェを凝縮している。この言説に対抗するのは、並大抵ではないよ。ここまで来ると、民主主義、キリスト教、プラトン、ユダヤ教、そして歴史をひっくり返そうとするホロコーストまで一直線だ。西洋は怪物を生み出した。ウエスタンインパクトはいいけれど、トータルでやりすぎたんだよね。