日本の財政赤字というのは政治的には解決不可能で、こうなったらインフレにして強制的に債務をチャラにするべきだという意見がある。このやり方で、世代間の不公平を無くして新しい日本の出発とするというもの。  一見合理的に見えるのだけれど、私はこの考えには躊躇を覚える。  ハイパーインフレ許容論には、ハイパーインフレになっても現在の日本の秩序レベルが維持できるだろう、という根拠の怪しい前提がある。日本人はおとなしいから、ハイパーインフレ下においても政府の言うことは聞くだろうということで、これは、そうであるかもしれないしそうでないかもしれない、実際にやってみなければわからないことだろう。  ハイパーインフレというのは中産階層を破壊する。ワイマールドイツでハイパーインフレになったとき、ドイツ中産階級の女性は処女で嫁ぐという常識が失われてしまったという。別に新婦が処女かどうかなんていうのは個別に取り出してみればどうでもいいことなのだけれど、このような様々な禁欲的思想群が中産階級を支えている。中産階級は禁欲的思想群を足場に、強力な労働にも耐えるという生活をしている。 日本においてどの程度のハイパーインフレがどの程度中産階級の禁欲的思想群を葬り去るかというのは、実際やってみなければ分からない事で、きわめて危険だと思う。ワイマールドイツもハイパーインフレの結果、ナチスのような無法者に取り込まれてしまったわけだし、日本だってどうなるか分からない。日本人は秩序を好む民族性があるなんてよく言われるけれども、そんなものはここ何十年かの神話だろう。関東大震災でパニックになった日本人が、実際朝鮮人にどのようなことをしたのかはここで書きにくいレベルだ。  普通に考えるべきだと思う。  日本の財政赤字が政治的に解決不可能のように見えても、心ある日本のエスタブリッシュメントはギリギリまで努力をするべきだ。それは正義の名に値すると思う。  幕末の志士は戊辰戦争に飛び込んだら明治国家が待っていた、戦前の日本は太平洋戦争に飛び込んだら戦後日本が待っていた。しかし次飛び込んでいい世界が待っているかどうかというのは、これは誰も保障できないことだろう。