半年ぐらい前にうちの会社に入ってきたクマモー。43歳でずんぐりむっくり、すっぱいにおいがリアルにするゆっくりしたオジサンなんだよね。  ところがこのクマモー、奥さんと中学二年の娘がいるという。突っ込む価値があると思って。だって女って命を懸けて男を選ぶから。   クマモーによく話を聞くと、結婚はしていないというんだよね、内縁の妻ということなのかな。さらに聞くと、家庭内でクマモー自身は奥さんの遠い親戚ということになっているということ。ちょっと理解するのが難しいのだけれど、要するに、クマモーは子供ができたことにたいしては身に覚えがあるわけだ、でまあ何らかの事情で、一緒に暮らしながらも父親というポジションを獲得できなかったということらしいんだよね。で、どのような事情があったかというと、当時奥さんなる人には同居していた男性なる人がいて、クマモーによると、この男性はどうやら奥さんの夫だったと思われるという。その人が5年ぐらい前に死んで、クマモー一家は3人家族になったという。  まったくにわかには信じられない話を語り出すわけだ。私は別にクマモーの真実を知りたいわけではなく、何らかの整合性のある話が聞ければよかっただけなのだけれど、さすがにこの話には突っ込まざるをえない。  「ねえクマモー、君の話が正しいとするなら、彼女の夫なる人は、妻の愛人を家族として家に受け入れたということになるけど、そんなことがありえるの?」  「よく分からないんだけど、あの人たちはいい人たちだったっす」  「ねえクマモー、その中学二年の女の子は、本当にクマモーの子供なの? だって何もかもいい加減にして14年もたってるんでしょ?」 「身に覚えがあるっす。ただそれだけっす」  奇妙ではあるけれど、整合性はとれている。  私は渾身の問いを問うた。「ねえクマモー、君さーしょっちゅう会社を休むじゃない? 俺はクマモーが会社を休んだってなんとも思わないよ、みんなでカバーすればいいと考えるだけだよ。でもさー、クマモーがいい加減な理由で会社を休んだら、クマモーの信用がなくなってクマモー自身の真実もあやふやになってくるんじゃないのかな。クマモーの娘が本当にクマモーの娘かどうか、クマモー自身のせいでぼんやりしちゃってるんじゃないのかな」  これに対しクマモーは間髪いれず 「自分もそう思うっす」 と答えた。私は、コイツ馬鹿じゃないなと思った。  これ以上は突っ込めない感じになった。真実なるものをもっとはっきりさせるなら、奥さんと子供なる人たちに直接話を聞くしかないが、別にそこまでやる必要もないだろう。面白いのはクマモーの観念であって、真実ではない。