もう30年以上前です。私は、中高一貫の全寮制の学校に行っていました。えらく厳しい学校で、飲酒、喫煙、カンニングは即日退学という。
さらにとんでもないド田舎に立地していて、ローカル線の駅まで歩いて30分、電車も30分に1本というレベルです。

中学二年の時に同級生が自殺したんですよね。30分に1本しか来ない電車に飛び込んで。

自殺した理由と言うのが、寮で飲酒をしたという疑いがかかったからということでした。彼の父親というのが、すごく厳しそうな感じでした。
まず間違いなく、自殺した彼は、自分の小さな罪が父親に知られてしまうのを恐れたのでしょう。

当時はとてもショックで。
葬式にも行きました。死んだ彼には妹が2人いてね、小さい方の妹は5歳ぐらいで、

「おにいちゃんはいつ帰ってくるの?」

なんておねえちゃんに聞いていました。今でもその情景が忘れられないです。

同窓会にも行くのですが、彼の話は出ないです。みんな忘れているというのではなく、この話はタブーみたいになっているのです。

この前、昔の友達からメールが来て、

「高校を卒業しても、あいつが死んだ現場に毎年行っていた」

と書いてありました。

「10年ほど行っていて、ある日風のざわめきにまぎれて、もう来なくていいよという声が聞こえた。だからそれ以来あの現場には行っていない」

さらにこうありました。

「精神分析学の用語でサバイバーズギルト、生き残ったものの引け目というのがある。アウシュビッツのいきのこりにこのトラウマが多発しているのは有名だ。僕らを支配しているのはこの、生き残ったものの引け目、だとおもう」

ああ、そうだろうなと思う。
生き残ったものの引け目か。

同級生が自殺して、僕らは「生き残った引け目」を抱えてしまいました。私たちはあの全寮制の、奇妙で狭い枠組みの中で6年間生活していました。

アイツは中学2年の時に自殺して、いまだにあの時の同級生達に語りかけている。

「僕達はあの時みっしりと生活していたよね」


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