最後の言葉だけは自分のために取っておく。

昔からそれだけを思う。自分を失わないための方法は、結局殺されても譲らないという狂気にも似た孤独な覚悟に行き着く。これは恐ろしい話でね。能力が足りなければ絶叫したとしても誰も相手にしてくれないという状況までありえる。

恐ろしい結末が待っていたとしても、最後の言葉を失っては生きる意味がないなんていうことは誰にとっても当たり前だと思っていた。でもそうじゃないのかなと思って。他の人はもっと弱いのかなと思って。

わたしの知り合いに、若いころ付き合っていた女性がバイク事故で死んじゃったっていう男がいる。そいつはその事故から20年たった今でも独身だ。彼女の事が忘れられないらしい。
これは呪いだろう。最後の言葉を自分のためにとって置かないで、彼女と共有してしまったのだろう。互いが互いの胸を掘りくずした。彼は20年たった今でも彼女の夢を見るのか。

弱い、弱すぎる。最後の言葉を失った人間に語りかける言葉はない。

残酷なようだけれども、残酷なのはお互い様だから。