「三四郎」 「それから」 につづく夏目漱石三部作の最後を飾るのが「門」です。「門」になるともう、あらすじなんていうものもなく、明治国家批評もなく、ただ主人公の宗助とその妻オヨネとの夫婦のあり方のみの、全編「夫婦小説」というべきものです。

宗助とオヨネは不倫の末結ばれます。明治時代というのは不倫には厳しい社会だったのでしょう。二人は人目を避けてひっそりと暮らします。

本文にこうあります。
「社会の方で彼らを二人ぎりに切り詰めて、その二人に冷ややかな背を向けた結果に他ならなかった。外に向かって成長する余地を見出せなかった二人は、内に向かって深く延び始めたのである。彼らは六年の歳月を挙げて、互いの胸を掘り出した。彼らの命はいつの間にか互いの底にまで食い入った。
二人は世間から見れば依然として二人であった。けれども互いから云えば、道義上切り離す事の出来ない一つの有機体になった」

これは砂の女。安部公房の砂の女だよ。地味な女性と、社会から切り離されて、じみちにひっそりと暮らす。これは究極ののロマンスです。

私も、実際これにあこがれて、24歳くらいの時今の妻と同棲を始めました。それから20年たってひっそりと暮らしているかというと、実は4人も子供が生まれて、毎日うるさくてしょうがないくらいです。

なかなか、宗助とオヨネのようにはいきません。