この橋川文三(1922-1983)は近代日本の研究家です。この人の本を二冊読みましたが、どちらも枠組みをものすごく大きくとって結局結論には辿り着かないというものです。

でも、そこがいいのです。

エヴァンゲリオンや進撃の巨人が面白いのと似たところがあります。ただエヴァや進撃はフィクションですが、日本近代というのはリアルですから。巨大な枠組みで近代日本を考えることほど、知的にスリリングな事はないです。

この「西郷隆盛紀行」ではもちろん西郷隆盛について書いています。しかしその話の枠組みがでかいのです。
第一
西郷は維新まえの何年か奄美大島や沖永良部島に島流しになります。そこで何らかのインスピレーションを得たのではないかと。鹿児島以南の島々や東北地方というのは日本というものに遅れて参加した地域です。この地域は日本でありながら日本に対して疎外感というものがあるらしいです。
第二
西郷が唱えた征韓論いったいなんなのか。西郷は一人朝鮮に乗り込んで死ぬつもりだった、というのが定説ですが、儒教の国というのは簡単に人は殺さないそうですよ。薩摩というのは江戸時代においても他の藩と違って琉球を通して世界とつながっていました。最低でも朝鮮と日本の近代史をシンクロさせる努力はしなくてはいけない。
第三
西郷隆盛を中江兆民、福沢諭吉、内村鑑三、徳富蘇峰などはどう見たか。
第四
西郷の征韓論なるものは朝鮮を侵略しようなんていうものではなく、ただ日本と朝鮮の当時ギクシャクした関係を東洋的な話し合いで解決しようとするものだった。その両者の話し合いが行われようとした矢先に、洋行していた明治国家首脳たちが帰国して、日朝間の東洋的話し合いを拒否して西洋的交渉に転換せしめた。それが江華島事件以降の日韓関係につながっていく。
この時の日韓関係が結局は、日清戦争、日露戦争、満州事変、日中戦争、太平洋戦争とつながっていくのです。

これらの要素をそれぞれ研究しこの全てを包括するような日本近代を説明する論理はないですか、と橋川文三は問うわけです。

すごい。こんな巨大な問題はないですよ。最近は中国や韓国を嫌いだなんていう人が多いみたいですが、そんなのばかばかしいですよ。みんなでこの巨大な問題を少しでも考えていく努力をした方が建設的なのではないでしょうか。