magaminの雑記ブログ

短編集の「フィッシュストーリー」から、表題作のフィッシュストーリーを紹介します

【フィッシュストーリーあらすじ】

小説内では、時系列がバラバラに、4つの物語が語られていてます。
時間を古い順番に並べなおして、あらすじを書きます。

35年前
一応プロなのですが売れないロックバンドがありまして、三枚目のアルバムがほとんど最後のアルバムになるだろうという予感が漂います。
最期のアルバムの最後の曲の収録で、時間がなくて一発撮りということになりました。ライブ感覚でやればいいか、ということで、みんなで盛り上がったのですが、バンドメンバーの一人が感極まって、
「この曲が誰かに届けばいいのに」
みたいな独り言を収録中に語ってしまいます。録り直しをすることもなく、独り言の1分ほどの部分を無音にしてレコードは発売されました。

20数年前
雅史は、このロックバンドのアルバムを車を運転しながら、窓を開けて大音量で聞いていました。アルバムが無音の部分になった時、ちょうど女性の悲鳴が聞こえました。
雅史は車を止め、悲鳴の聞こえたあたりに徒歩で戻ってみると、女性が襲われているところでした。正義感の強い雅史は、ビビりながらも女性を助けます。

現在
自殺願望のあるハイジャッカーたちにジャンボジェットがハイジャックされます。そこに乗り合わせた瀬川は、子供のころから親に
「正義をなせ」
と教育されていました。正義をなすにおいて大事なことは日ごろからの心の準備だと言われて、瀬川は育ちました。
瀬川はおそらく、車に乗ってロックを聴いていた男性と襲われていた女性との子供なのでしょう。
瀬川はハイジャッカーたちを華麗に叩きのめしました。

10年後
10年前にハイジャックされそうになったジャンボに乗っていた橘麻美は、自身のITスキルを生かして、大きなハッカー事件を未然に防ぎます。非常に多くの人たちが麻美の活躍で救われたらしていです。

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【「フィッシュストーリー」 意味の解説】

話の意味としては、あるロックバンドの歌に込めた想いみたいなものが受け継がれ、時とともにおおきくなって、最後は多くの人を救うに至るという話にはなると思います。

しかし正直言うと、多くの人が救われたと言っても結果論みたいな話ですよね。最初のロックバンドが1分間の無音を作ったことによって多くの人が救われた、と言っても、100%の関連性とかはないでしょう。最後の女性の橘麻美さんも、自分が気が付いていないだけで命の危険みたいなこともあったと思います。彼女が今まで生きてきたのは、ハイジャック犯を叩きのめした瀬川だけのおかげというわけでもないでしょう。

作者が、物語は運命の必然だと主張しても、神様みたいなみのがない限り「必然」なてありえない、というしらけた意見を完全に排除するのは難しいです。

伊坂幸太郎のデビュー作である「オーデュボンの祈り」では、運命をコントロールするカカシを登場させることによって「必然」を担保しましたが、「フィッシュストーリー」では何も設定されていないので、必然を期待する人間の話になってしまっています。

必然を期待する人間の話、というのでは、「フィッシュストーリー」は平均的な出来の現代小説ということになるでしょう。

伊坂幸太郎は、作中に喋るカカシや死神を登場させたり自由自在なわけで、あえて運命をコントロールするような存在を登場させない小説は、伊坂幸太郎の小説に対するチャレンジだと受け取りたいです。



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「平成」の名前の由来は、『書経(偽古文尚書)』大禹謨の「地平天成(地平かに天成る)」からで「国の内外、天地とも平和が達成される」という意味


「昭和」の由来は、四書五経の一つ書経堯典の「百姓昭明、協和萬邦」(百姓(ひゃくせい)昭明にして、萬邦(ばんぽう)を協和す)による。

「大正」の由来は『易経』彖伝・臨卦の「大亨以正、天之道也」(大いに亨(とほ)りて以て正しきは、天の道なり)から。

「明治」の由来は、『易経』の「聖人南面而聴天下、嚮明而治」より。
「聖人南面して天下を聴き、明に嚮(むか)ひて治む」

菅官房長官によると、「令和」の意味について説明。新元号の出典は「万葉集」だと明らかにした。新時代の元号は、中国ではなく日本の古典から採用されたのは確認される限り、初めて

明治、大正、昭和、平成、の出典は、易経、易経、書経、書経、と五経押しだったので、次は四書かと、論語あたりが妥当かなと思ってた。
安倍総理が山口出身だから、吉田松陰つながりで孟子もありかと。
さすがに孟子はないか。

「令和」の出典は、予想を超えて万葉集。

日本の精神的独立の決意だと受け止めたい

物語の形式というのは以下の4つになります。

1 神話

2 悲劇

3 ポリフォニー(多声的)小説

4 モノローグ(独白的)小説


それぞれにそれなりの面白さがあります。

歴史的に小説世界は、1から4の形式に順次移行していったと考えられます。これが物語の進歩であるか、堕落であるかは葉判断の分かれるところだとは思いますが、進歩と考えるのが常識的でしょう。

様々な物語や小説は
1 神話
2 悲劇
3 ポリフォニー(多声的)小説
4 モノローグ(独白的)小説
に分類できると思います。

人間というのは面白いものを面白いと感じます。しかし、なぜ面白いものが面白いのか、面白いとは何なのか、ということは難しい問題になってきます。

その辺のところに切り込んでいこうと思います。

伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」という小説を例にして、面白いとは何なのか、について考えていきます。

「オーデュボンの祈り」は伊坂幸太郎のデビュー作なのですが、「オーデュボンの祈り」を読んだことのない人のためにあらすじを説明します。



「オーデュボンの祈り」あらすじ

まず主人公の青年が、他所と交流を絶って久しい島に連れてこられる。青年は島を歩き回っていろんな人と知り合いになる。最重要のキャラクターは、未来を知ることができる喋るカカシだ。田んぼの真ん中に立っている。
このカカシって結構最初の方で殺される。殺されるといってもカカシなんだけれど。カカシ殺しの犯人が強力に追及されるのかというと別にそうでもない。主人公はペンキ屋の青年と一緒に天気を予報するネコを見に行ったりとか、ペンキ屋の青年が憧れの女性とデートしたりとか、主人公が知らない女の子からフライパンとバターをもらったりとか、少女が道端で寝転んでいたりとか、船長が川原でブロックを集めていたりとか、意味があるとも思えない出来事がバラバラに起こり続ける。多少重要だろうと思われることは、嫌われ者のさえないオヤジが殺されたことだ。しかしこのオヤジは島にごく最近来ただけで、島民はほとんど無関心。

460ページの本も残り100ページを切って、これ後どうするの? と心配になってくる。

ところが伏線は強引に回収された。
カカシは、未来を予言するカカシではなく、未来をコントロールするカカシだった。小説内の無意味と思われる出来事は、じつはカカシが望む未来の一事象のためのカカシによる誘導だった。
そしてカカシが望む未来の一事象とは何かというと、これが何と鳩のつがいの保護だった。

まさか二羽の鳩のために世界が回っていたとは!

そういえばみんなチョイチョイ鳩のことを語っていた。この小説の題名「オーデュボンの祈り」のオーデュボンも100年ほど前のアメリカの鳩学者らしい。かつてアメリカにはある種の鳩が20億羽いたらしい。この鳩が集団で飛ぶと何日も空が暗くなったという。
崇高な二羽の鳩のために伏線は回収され、世界が整合性を持って立ち現れる。


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あらすじだけではなく小説の意味の説明までしてしまいましたね。

未来をコントロールするカカシが「神」ということで、カカシが喋って生きている間は、「オーデュボンの祈り」は神話と判断できます。このカカシは小説の3分の1ぐらいのところで殺されるのですが、そのあと物語世界は混沌に落ち込むかというと、そういうわけではありません。神であるカカシの余光みたいなものが残っていて、運命にコントロールされる人間の話に移行します。

すなわち、神話から悲劇に物語が移行していきます。

「オーデュボンの祈り」では、予定調和的に、たちの悪いサイコパス警官が成敗されてめでたしめでたしということになって、
「これ、悲劇なの?」
という意見の人もいるかもしれませんが、サイコパス警官にとっては悲劇です。

神話において神が死んだので混沌世界に移行するのかというと、実際には世界は悲劇世界で踏みとどまる、みたいなことになるわけです。

私たちが物語を面白いと感じる理由がちょっと見えてきてませんか?

神が死んで世界が崩壊するかもしれないという不安が、悲劇という形式の登場で解消されるという点が「オーデュボンの祈り」の面白さを支えているんだと思うのです。

量子物理学的に考えると、神話という高い位相から悲劇という一段低い位相に移行することによってエネルギーが出て、そのエネルギーを面白さを感じる受容体が感受して、私たちは面白く感じるということになるのではないでしょうか。

よくわからない例えを出してしまったのですが。

結局、
1 神話
2 悲劇
3 ポリフォニー(多声的)小説
4 モノローグ(独白的)小説
への移行は、進歩という物ではなく堕落と考えるのが妥当ではないかと思います。



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【立花孝志氏がNHKをぶっ壊そうと決意した理由】

立花孝志氏は、2004年7月NHK本部編成局(経理)に異動になって、2005年の7月にNHKを退職しています。この一年に何かがあったということです。

以下の動画によりますと、2005年3月24日に、NHKから「NHKを潰さないといけないとの過度な社内発言」を指摘された内容証明郵便を受け取っています。



立花孝志氏が動画内でも告白しているように、過激な言動、同じ言葉を繰り返す、繰り返し電話をする、などの行為は、躁うつ病の症状でしょう。

立花孝志氏が躁うつ病になった理由というのは、2004年7月NHK本部編成局(経理)への異動がきっかけでしょう。
紅白チーフプロデューサーの横領発覚が2004年7月20日です。NHK本部編成局に移動になった立花孝志氏は、ただちにこの横領事件の内部調査という仕事を始めます。

立花孝志氏が横領事件の内部調査のためにNHK本部編成局に移動になったのか、それともNHK本部編成局に移動になってみたら紅白チーフプロデューサーの横領が発覚したのか、どちらなのかは分かりません。ただ立花孝志氏が、横領事件の内部調査という重要な仕事を任された、ということから、立花孝志氏は2004年7月の時点では躁うつ病ではなかったと思われます。

2004年7月の紅白チーフプロデューサーの横領発覚というのは当時の大事件です。不祥事を受けて、2004年9月9日に衆議院総務委員会ではNHK会長であった海老沢勝二の参考人招致が行われました。

以下の動画によると、調査によって立花孝志氏は、この横領事件は紅白チーフプロデューサーの個人的犯罪ではないことを知るようになったということです。NHK芸能部全体で20億から30億の金が消えていると。組織的な横領があったことは明らかだそうです。



NHKとしては組織的な横領ではまずいので、被害を一番最初にばれた紅白チーフプロデューサー1人に限定する方向で組織防衛を図ります。
そしてここが重要なのですが、動画内で立花孝志氏が指摘するところによると、NHK芸能部にお金をキックバックした業者の社長が、警察の取り調べを受けた当日に東京湾に車で飛び込んで自殺したそうです。

立花孝志氏はこの自殺を殺人ではないかと疑っています。



立花孝志氏の躁うつ病の引き金は、この疑いによってだと思われます。立花孝志氏にとっては、組織的横領自体は想定内だったでしょう。自身もソルトレークオリンピックで裏金を作ったと、同じ動画内で告白しています。

横領はまだいいとして、殺人があったとしたら、これはまずいです。この殺人事件への疑いが、立花孝志氏を躁うつ病に追い込んだ原因だと推測します

実際に殺人事件があったかどうかというのは、もう分からないのです。ここを追及すると陰謀論のようなことになります。
ただ、殺人を犯したと自分に疑わせるレベルの公共放送は解体されなくてはならない、という立花孝志氏の信念は簡単に否定することは出来ません。

立花孝志氏「NHKから国民を守る党」の政治活動は、金目当てではないか、何となく怪しい、ただの権力欲、目立ちたいだけ、などと思われがちでしょう。

しかし立花孝志氏の動画を詳細に見てみると、彼は彼なりの正義感(多くの人にとっては奇怪な正義感だと思われるかもしれないが)に立脚して行動していると判断できます。

立花孝志氏は、もしかしたら頭がおかしいのかもしれませんが、金目当てとか目立ちたいだけとか、そのようなことはありえないです。


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ネタバレありです

「バイバイ、ブラックバード」は太宰治の「グッド・バイ」の伊坂幸太郎流の続編として書かれています。


【「バイバイ、ブラックバード」あらすじ】

「バイバイ、ブラックバード」は5編+αからなる連作短編集です。

主人公の星野一彦はなんらかの理由で「あのバス」に乗せられてどこか遠くに連れていかれることになってしまいます。星野の監視役として組織から繭子という女性が派遣されます。

繭子なのですが、マツコ・デラックスをイメージしてもらえればいいと思います。

星野はバスに乗せられてどこか遠くに連れていかれる前に、今付き合っている5人の女性に一人ずつ別れを告げることが認められます。

バイバイブラックバードⅠ 廣瀬あかり

星野と廣瀬あかりはいちご狩りで出会いました。キチンとした格好の星野が一人でいちご狩りに来ていることに、廣瀬あかりが興味を持ったのが二人が付き合うきっかけでした。
繭子の提案で、星野が巨大ラーメンを食べきったら、廣瀬あかりはスッパリ星野と別れるということになります。出会いがいちごの食べ放題だったから、別れは巨大ラーメンなのが運命だ、というよくわからない理由が語られます。

バイバイブラックバードⅡ 霜月りさ子

星野が車を刑事に乗っていかれて呆然としていたところに、霜月りさ子が通りかかりました。彼女が星野に同情したことをきっかけに二人は付き合い始めました。
星野は突然の別れの償いとして、霜月りさ子の車を当て逃げしていった犯人を捕まえることにします。

バイバイブラックバードⅢ 如月ユミ

深夜にロープを抱えて歩いている如月ユミに星野が話しかけたことが、二人の付き合うきっかけでした。
如月ユミは星野と別れることをあっさりと承諾します。そのお礼というわけではないのですが、星野と繭子は、如月ユミとその友人との狂言強盗ごっこを手伝うことにします。

バイバイブラックバードⅣ 神田美奈子

星野と神田美奈子は耳鼻科病院で出会いました。耳鼻科医院というのは全国に1万軒ぐらいあるらしく、2人がであったのは運命だったみたいな考え方もあります。
別れを告げるために訪ねてきた星野に、神田美奈子は「自分は乳癌かもしれない」と告げます。精密検査の結果が明後日明らかになるというのです。星野はその結果を知りたいと思うのですが......

バイバイブラックバードⅤ 有須睦子

有須睦子は有名女優です。彼女と星野が付き合うようになったのは、星野が有須睦子の撮影現場にたまたま訪ねてきていたから、というものでした。
一般人の星野と有名女優とは釣り合わないと。しかし、有須睦子が星野に興味を持った理由は、彼女も忘れてしまっていたかつての運命的な思い出にあって.......

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【「バイバイ、ブラックバード」 意味の解説】

「バイバイ、ブラックバード」は太宰治の「グッドバイ」の続編をイメージして書かれたらしいですが、言われなければ全く気が付かないでしょう。
「グッドバイ」でのキヌ子に当たる人物が繭美なのでしょうが、 キヌ子は「運命に軽やかに逆らう」キャラクターですが、繭美は運命をコントロールする側ですから。

星野は「あのバス」に乗せられてどこかに連れていかれ酷い目に合うらしいのですが、「あのバス」を運行する組織とは何か、どこに連れていかれてどのような酷い目に合うのか、は本文中では全く明らかにされません。
さらに星野が連れていかれる理由なのですが、本文中に「借金」とは書いてはあるのですが、どのような借金なのかは明らかにされません。
伊坂幸太郎は自作解説の中で、

「あのバスとは何か、という読者の期待に応えられていたかは、まあ読んでいただければと思うのですが、ちょっと申し訳ないです」

と語っています。

さらにバスの説明をしなかった理由として、

「ロシアの映画に『父、帰る』という作品があって、作中で登場人物のディテールへの言及がないという体裁がすごく神話っぽいなと思いまして、それと同じことをやりたくなったんですよ」

とあります。

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伊坂幸太郎は「神話っぽい」と言っていますが、正確に言葉を選べば「悲喜劇っぽい」ということになるでしょう。

近代以降の小説という形式は、小説世界の整合性はその世界内で完結している、というものです。それに対して悲劇の形式とは、悲劇世界の整合性は別の世界の意思のようなものによって担保されていて、悲劇世界の人間は、別の世界によって指定された運命に従って物語を紡いでいく、というものです。

悲劇世界においては、人間は世界の意味について知ることは出来ないし知る必要もない、という設定になっています。「バイバイ、ブラックバード」の読者が「あのバス」の意味を知ることができないのと同じです。

この流れで星野一彦が、なぜ「あのバス」で連れていかれなくてはならなかったのか、どこに連れていかれるのか、を説明してみましょう。

星野は5人の女性の運命をコントロールしてしまいました。正確に言うと、5人の女性は星野との出会いを運命だと思ってしまいました。
しかし悲劇世界で運命をコントロールできるのは、人間には知ることの出来ない別世界の意思だけです。星野は悲劇世界での禁忌を犯したと。星野は、この世界の運命をコントロールする意思に対して借金があるということになります。だから「あのバス」で連れていかれます。

星野がどこに連れていかれるかというと、悲劇世界をコントロールする意思の世界へでしょう。それがどのような世界かというのは語ることができません。これを語ってしまうと悲劇世界が壊れてしまいますから。

伊坂幸太郎の小説というのは、小説の形式ではなく悲劇の形式を踏襲しているでしょう。

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【「SOSの猿」 あらすじ】

「私の話」と「サルの話」が並行して進みます。

「私の話」での主人公は、弱いくせに人の不幸を見過ごすことができない遠藤二郎君です。職業は家電量販店での販売員なのですが、除霊のボランティアをやっています。

二郎君は昔イタリアに留学した時に、ちょっとしたきっかけで悪魔祓いをする神父に弟子入りしていた経験がありました。

二郎君が除霊ができるという噂を聞きつけられて、親戚のおばさんに、引きこもっている自分の息子の様子がおかしいので試しに除霊をしてほしい、と頼まれてしまいます。

気が進まない中、その息子(真人君)に会いに行くと、真君は、

「自分は孫悟空である」

と、さらにそのことを証明するために

「例えば窓の外を歩いているあの男の半年先の未来までを予言する」

というのです。

真人君が語った一人の男の半年間の物語が「猿の話」ということになります。


「猿の話」での主人公は五十嵐真です。小説の構造上、ここはネタバレになるのですが、真人君の部屋の窓の前を歩いている男の名前は五十嵐真であると、真人君自身が語りだすわけです。

五十嵐真はコンピューターのシステム開発会社に勤めているのですが、システムを納入した先の証券会社で、株の誤発注事件が起こります。

証券会社の社員が、『20万円1株売り』の注文を間違えて『1円20万株売り』とやってしまい、気が付いて注文を取り消そうとしてもコンピューターシステムに受け付けてもらえず訂正できませんでした。結果、証券会社は300億円の損害を被ります。

株取引のコンピューターシステムに不都合があったのかなかったのかを調査するために送り込まれたのが五十嵐真でした。

五十嵐真の調査によると、誤発注した証券会社社員は寝不足であったと。寝不足であった理由は、前夜隣の部屋がうるさかったからだと。
何故うるさかったのかというと......  ここから先は孫悟空も現れて、五十嵐真と共に因果関係を探索していきます。

「五十嵐真の話」は真実を確かめる話です。
半年たって、遠藤二郎君とそのゆかいな仲間たちは、半年前に真人君の部屋の窓の外を歩いていた男を実際に捕まえて、真人君の話は真実であるのかどうかを確かめようとします。

結論から言うと、真人君の話はだいたい合っていました。男の名前が五十嵐真であるということ、株の誤発注事件が実際に起こったということ、などは合っていたのですが、誤発注を起こしてた証券会社の名前、証券会社の損失額というのは、真人君の話とは多少違っていました。

真人君の話によると、証券会社社員を寝不足にした隣の部屋には、とんでもなくタチの悪いDV男が住んでいるということでした。真人君の話がおおむね真実なら、よし今からみんなでそのDV男と対決しに行こうということになりました。

DV男は自滅します。そして株の誤発注事件を前もって知っていた真人君は株取引で大金を得ます。真人君はその儲けたお金でかわいそうな人たちを救い、話は終わります。

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「SOSの猿」意味の解説

本作にある株の誤発注事件というのは、2005年にみずほ証券がおこした「ジェイコム株大量誤発注事件」がモデルになっているでしょう。この事件で20億円の利益を得た個人投資家が「ジェイコム男」と命名されたりしました。

当時の個人投資家の話題はこのジェイコム男についてではなく、証券会社の空売りシステムについてでした。空売りとは、信用取引において持っていない株を売ることの証券用語です。当時個人投資家は日本証券金融が指定した銘柄しか空売りできなかったのですが、この事件によって、証券会社は新興市場に当日新規上場したような銘柄でも無限に空売りできるのだと明らかになりました。


伊坂幸太郎の小説は、個人の意思による勧善懲悪を排除して、運命をつかさどる神の采配としての勧善懲悪を目指す、という特徴があります。

伊坂幸太郎はジェイコム事件から、あぶく銭は運命をつかさどる神によって困窮している人に再配分されたら、のようなインスピレーションを得たのでしょう。

運命をつかさどる神の手下として、「孫悟空」が登場させられているのでしょう。


この「SOSの猿」は、五十嵐大介の「SARU 」とのコラボ企画です。「SARU 」を読めば、「SOSの猿」の伏線をより多く理解できるでしょう。

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